道路交通法に違反、刑事処分を受けた場合のビザ更新申請・変更申請
日本で生活する外国の方も当然、日本人・日本国民同様に、法律やルールを守らなければなりません。
とは言え、時には、法律やルールに違反することもあるかもしれません。
その典型が自動車を運転する場合に道路交通法に定められたルールに違反して、いわゆる「反則切符」を切られることでしょう。
反則切符を切られるのは、もちろん日本人や日本国民でも、めずらしいことではありません。
しかしながら、ビザをもって生活する外国の方にとって、それがビザの更新や変更に影響するのか、影響するとしてどの様に影響するのか、気になるところでしょう。
道路交通法違反にも、刑事処分を受けることがないとは限りません。それらがビザの更新や変更の申請にどの様な影響を与えるのか確認していきます。
「速度オーバー」の場合にも、在留資格・ビザ申請時に、「申告」は必要?
在留資格・ビザの申請は、法務省・出入国在留管理庁が制定した申請書フォームに必要事項を記入して提出する必要があります。
申請書は申請手続や対象となる在留資格によって、異なりますが、多くのものに「犯罪を理由とする処分を受けたことの有無」という項目があります。この項目には従来から「日本国内外を問わない」という括弧書での注意書きがありました。
ここで言う「処分」について、速度超過などの交通規則違反による「反則切符」は含まれるのか、というお問い合わせをこれまでにも、かなり多く頂戴してきました。
ところが最近になり、「在留資格認定証明書交付申請書」「在留資格変更許可申請書」「在留期間更新許可申請書」などの申請書フォームには、「※交通違反等による処分を含む。」という注意書が追加的に付記されました。
このことは、刑事罰にはあたらないとされる、いわゆる「反則切符」でも、申請書に記載してビザ申請時には申告、報告することが必要であることが、明示されたものと理解すべきでしょう。
なお、「永住許可申請書」にはこの注意書は追加されていませんが、同様に申請書に記載するべきと考える方が良いでしょう。(「犯罪を理由とする処分」の欄に記入せずとも、理由申述書など何処かに記載すべきでしょう。)
「交通切符」は、在留資格・ビザの更新や変更の許可に影響するのか?
法律の文言・法文から見てみると
それでは、交通違反による「反則切符を切られた」場合に、ビザの更新や変更の審査や許可には、どの様に影響を及ぼすのでしょうか?
入管法が定めるビザの更新や変更の許可の条件は、法文上は、申請されたビザの更新や変更を「適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」、許可できるとだけ規定されています。
法律の条文から、抽象的な条件しか分からないのです。
永住権になると、もう少し詳しいのですが、入管法の定める永住権の許可条件は、次の3つです。ここでもそれほど具体的とは言えません。
- 素行が善良であること
- 独立した生計を営める資産もしくは技能はあること
- 日本国の利益に合うこと
「ガイドライン」から見てみると
そこで、法務省・出入国在留管理庁の公表している、在留資格の許可に関する「ガイドライン」について、見ていきます。
まず、「在留資格・ビザの更新・変更のガイドライン」です。具体的には次の通りです。
- 申請された更新・変更後の仕事や活動が、入管法がビザの種類ごとに定めた仕事や活動の何れかに対応していること
- 「上陸許可基準」に適合していること
- 素行が不良でないこと
- 独立の生計を営むに足る資産または技能を有すること
- 雇用・労働条件が適正(労働法規に適合)であること(就労する場合)
- 納税義務を履行していること
- 入管法の届出義務を履行していること(在留カード記載事項変更届出など)
ここでは、ビザの更新や変更の審査にあたり、マイナスに評価されると明示されている法律違反が2種類となっています。
税法上の納付義務違反と入管法上の届出義務違反です。
次に「永住許可に関するガイドライン」を見ていきます。次の通りです。
1.素行が善良であること
法律を遵守し日常生活においても住民として社会的に非難されることのない生活を営んでいること
2.独立生計を営みうる資産または技能を有すること
日常生活において公共の負担にならず,その有する資産又は技能等から見て将来において安定した生活が見込まれること
3.永住が日本の国益に合致すること
- 原則として引き続き10年以上本邦に在留していること、ただし,この期間のうち、就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する
- 罰金刑や懲役刑などを受けていないこと、公的義務(納税、公的年金及び公的医療保険の保険料の納付並びに出入国管理及び難民認定法に定める届出等の義務)を適正に履行していること
- 現に有している在留資格について、出入国管理及び難民認定法施行規則別表第2に規定されている最長の在留期間をもって在留していること
- 公衆衛生上の観点から有害となるおそれがないこと
永住許可のガイドラインでは、ビザ更新・変更のガイドラインでマイナス評価されるとしていた税法上の納付義務違反、入管法上の届出義務違反の他にも、罰金刑や懲役刑のあたる刑事罰、社会保険料の納付義務違反も、マイナスに評価される訳です。
これら以外の、法律やルールに違反しても在留資格・ビザの許可に影響しないのでしょうか?
在留資格・ビザ更新・変更のガイドラインにも永住許可の法定許可条件にも、「素行善良」というものがあります。
永住許可のガイドラインでは、素行善良の要件として、法律遵守と社会的非難を受けない日常生活を上げています。
在留資格・ビザ更新・変更のガイドラインにある「素行善良」にも、法律遵守が含まれると見てよいでしょう。
ガイドラインの言葉の上からは、「交通違反」に限らず、法律違反が少しでもあれば、ビザの更新や変更の申請の審査に関して、マイナス評価されるリスクがある、ということになります、在留資格・ビザの許可は行政の裁量行為に当たるからです。
実際には、些細な法律違反があれば、在留資格・ビザの更新や変更は危うくなる、とまでいう必要はないでしょうが、「交通違反の反則切符」以外にマイナスと評価される事情があれば、ビザの更新や変更が難しくなることもあり得るかもしれません。
具体的には、「交通切符を切られ」、更に上記の納税義務違反、入管法上の届出義務違反、更には社会保険料納付義務違反、その他の罰金刑・懲役刑を受けていれば、「不許可リスク」が現実化すると見てよいでしょう。
「交通切符」はどの様に影響するのか?
それでは、交通法規や規則の違反について具体的に検討していきます。
道路交通法に違反した場合交付される、いわゆる「交通切符」(正式には交通反則告知書/告知票)には、大きく2種類あります。 「青切符」と「赤切符」と呼ばれます。
「青切符」は、比較的軽微な違反の場合に交付されます。反則金の納付書も合わせて交付さえますが、反則金を期限内に納付すれば刑事事件としては扱われません。(より軽い違反には「白切符」というものもありますが、ここではこれ以上は言及しません。)
「赤切符」は、より重たい違反の場合に交付されます。いわゆる前科がつき、刑事事件として扱われます。
なお、「青切符」についても、反則金を納付せず、裁判で争った後に罰金を支払うことになれば、「赤切符」と同じ扱いとされます。
「赤切符」を切られた場合、刑事罰を受けたことになるので、在留資格・ビザの変更や更新の申請の際、「犯罪を理由とする処分を受けたことの有無 」という欄に記入することになります。これは従前から必要なものでした。
「青切符」を切られたことがあった場合、ビザの申請書に記載するかどうか、従来は議論があったのですが、現在では「赤切符」同様に記載する必要があると確認されたことについては上述の通りです。ここでも「犯罪を理由とする処分を受けたことの有無 」という欄に記入する必要があります。
「青切符」または「赤切符」を受けたからと言って、それだけで在留資格・ビザの更新が直ちに不許可になるという訳ではありませんが、マイナス評価を受けることは間違いありません。
また、「青切符」と「赤切符」では、「赤切符」の方がより重大に評価されることが予想出来ますが、逆に「青切符」であれば問題ないと考えるのも危険かもしれません。
在留資格・ビザの申請に対する審査は原則として様々な事情を総合して行われるものなので、個々の申請者の具体的な事情に合わせた申請書や添付書類の作成が必要です。
原則として、交通違反の具体的事情や申請人の心情(後悔や反省など)を含めた申述書の添付が必要でしょう(当事務所に依頼された場合、これらの作成も含めて、対応いたします。)
その他の刑事処分
刑事処分を受けている場合、ビザ変更や更新を申請する場合、「犯罪を理由とする処分を受けたことの有無 」の項目を有として申請を行う必要があります。
刑事処分を受けている場合には、在留資格・ビザの変更、更新の審査に影響を及ぼすことはやむを得ないでしょう。
但し、刑事処分といっても様々な種類、軽重があります。
その区分の一つとして、退去強制の対象とされるものとされないものを上げることができます。
入管法の規定では、1年以上の懲役・禁固の刑を受けた場合、執行猶予が付かなければ、退去強制となるおそれがあるとされます。
永住者や配偶者ビザなどの居住ビザ以外の、活動ビザ(就労ビザなどです)については、執行猶予が付かない場合でも、退去強制となるおそれがあります。
退去強制にあたる様な処分を受けたにもかかわらず、退去強制は受けなかった場合においても、ビザの更新や変更は相当難しいと思われます。
罰金刑などの退去強制にあたらない場合は、そのことだけで直ちにビザ変更や更新が不許可になるという訳ではありませんが、審査が厳しくなると見てよいでしょう。
出入国在留管理庁の公表する「不許可」事例においても、刑事罰を受けて、在留資格・ビザの変更・更新が不許可になった事例がいくつか含まれています。
一方で、当事務所が取り扱った事例において、罰金刑を受けていても、1回の処分歴であれば、5年の在留期間での更新が認められたケースもあります。
また、複数の犯罪歴(罰金刑)があっても、在留資格・ビザ更新の許可を得たケースもあります。
何れにしても、犯罪を理由とする処分歴がある場合は、在留資格・ビザの変更または更新の申請書には、申述書などを作成添付し、個別事情や背景、その他を詳しく記述することが必要です。
その他の法令違反、ペナルティー
その他の法令違反(租税、社会保険料の延納、不払いも含みます。)やペナルティー(行政罰などです)があった場合も、注意が必要です。
そのことだけで、必ずしも在留資格・ビザ変更や更新が不許可になる訳ではないでしょうが、万一、その事実が明らかとなった場合(添付資料から分かる場合、個別に照会がある場合が考えられます。)には、相対的に厳しく審査される可能性があると考えておいた方が良いでしょう。
但し、永住許可申請については、最近(令和元年5月)にガイドラインがより厳しく改訂されたこともあり、税や社会保険の未納だけでなく、過去に延納も含めて厳格に審査されることが明確となりました。
当事務所が申請代行を行った永住許可申請のケースでも、過去に住民税や社会保険の延滞があった事実をもって永住許可申請が不許可となったものがあります。
租税については、数日の延滞事実をもって、不許可となったこともあります。
最後に
「交通切符」や刑事罰を受けたり、その他に法令違反があった場合、在留資格・ビザの変更や更新の申請に関する審査や判断にその様に影響するのかは、あくまで個別事案毎に異なるものであり、一概に判断することは難しいと言えます。
但し、申請書の作成にあたっては、最悪の事態=不許可になることを回避するため、最低限申述書などの追加的添付書類を準備する必要があるでしょう。
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