留学生採用を検討中の企業向け・在留ビザ・就労ビザ申請の注意点
近年、日本は低失業率を維持しており、労働力市場は人手不足の状況が続いていますね。外国人の採用を検討されている、または実際に計画されている企業や経営者の方も多いものと推察します。初めて外国人を採用するのであれば、まずは日本の生活や習慣に慣れた留学生の採用を考えることが、ある意味自然でもあります。
本稿では、初めて外国人を採用する場合、とりわけ留学生を採用する場合に注意すべき事項を、入管法(「出入国管理及び難民認定法」)に関する問題を中心に解説いたします。
「留学」ビザとは?
日本で生活する外国人は、原則ビザをもっています。入管法では、「在留資格」を許可されると言いますが、外国の方は、通常visa・ビザを取る、と呼んでいます。
日本政府、正しくは法務大臣が発行する「ビザ」には数多くにの種類があります。それらは、大きく2つに分けることができます。
- 特定の身分や地位に対して与えられるビザ・・・一番分かり易いのが、「日本人の配偶者」のビザです。永住者のビザもここに入ります。これに分類されるビザは、原則仕事を自由に選ぶことができます。
- 日本で行う「活動」に対して与えられるビザ・・・「活動」というと分かりにくいですが、典型的には「仕事」のことです。仕事ができるビザは仕事の種類ごとに細かく分かれています。実は「留学」ビザもここに入ります。
2番目の「活動」のビザをもつ場合、日本では、原則として、ビザの種類ごとに決められた「仕事」その他の「活動」を行わなければなりません。特に、職を得て給料を受け取ったり、事業を起こして売上を得る様な場合、ビザに決められていないことは許可なくできないとされます。
「留学」ビザを許可されて、日本で生活する外国人も、学校を辞めて、学生でなくなることは許されません。アルバイトは決められた時間内で許可を受けた上でなければ行うことができません。
日本には、どの学校に留学生がいるのか?
「留学」ビザで入学できる学校は、結構幅広く対象とされています。
大学、高等専門学校、高等学校(中等教育学校・後期課程)、特別支援学校・高等部、中学校(義務教育学校・後期課程、中等教育学校・前期課程)、特別支援学校・中等部、小学校(義務教育学校・前期課程)、特別支援学校・小学部、専修学校、各種学校とこれらに準じる機関、これが対象です。
ほとんどの「学校」が「留学」ビザの対象と言えます。
では、実際に「留学生」はどの学校にどの程度いるのでしょう。どの種類の学校に通っているかで区別された「留学」ビザ保有者数の資料はないのですが、次の数字は、平成30年5月1日現在の独立行政法人日本学生支援機構の調査による留学生の数字です。
- 大学院・・・・・・・・・50,184人(16.8%)
- 学部大学・・・・・・・・84,857人(28.4%)
- 短期大学・・・・・・・・・2,439人( 0.8%)
- 高等専門学校・・・・・・・・・510人( 0.2%)
- 専修学校(専門課程)・・・67,475人(22.6%)
- 準備教育課程・・・・・・・3,436人( 1.1%)
- 日本語教育機関・・・・・90,079人(30.1%)
- 合計 ・・・298,980人
この統計は、高校以下の学校や各種学校を含まないものです。平成30年6月末の「留学」ビザ保有者数は、324,245人でしたから、上記の学校に、「留学」ビザ保有者の92%が通っていたと推測できます。
特に、「大学院」「学部大学」「専修学校(専門課程)」「日本語教育機関」に通う留学生が多く、「留学」ビザ保有者の9割以上と推定できます。
以下では、「大学院生」「学部大学生」「専修学校生(専門課程)」「日本語教育機関学生」を中心に採用時の注意点を説明してまいります。
どの学生を採用するのか?
留学生が卒業後、日本で就職する場合には、「留学」ビザのままでは仕事はできません。新しい仕事に対応するビザに変更する必要があるのです。
逆に言えば、留学生を採用をしようと思っても、対象の留学生が就くべき業務に対応するビザに変更することができなければ、雇用することはできないということになります。
ビザの許可・不許可は、法務省の「裁量行為」とされています。条件さえ整えば、確実に許可が得られる訳ではありません。対象のビザの許可を相当の確度で得られる条件をもった留学生を採用することが肝要なのです。
「大学院生」「学部大学生」を採用する場合
「仕事」ができるビザを「就労ビザ」といいます。就労ビザで最もポピュラーなビザが、「技術・人文知識・国際業務」というビザです。(かつては、保有者の数も一番多かったのですが、近年「技能実習」ビザが新設されて、今はそちらの方が多くなっています。)
「技術・人文知識・国際業務」とは名称が少し長くて、どんな仕事を対象とするか分かりにくいですが、「技術・人文知識」と「国際業務」に分けて考えることができます。
「技術・人文知識」の部分が対象とする仕事は、「理学・工学などの自然科学の分野、もしくは法律学・経済学・社会学その他の人文科学の分野に属する、技術または知識を必要とする業務」とされます。
人文科学といっても、日本の大学での体系では、人文科学と社会科学の両方のことを指しています。
従って、「技術・人文知識」ビザの仕事は、人文・社会・自然科学の知識や技術を必要とする業務のことです。一般的には大学院卒や大卒の学生を対象として募集される仕事はほぼ当てはまると言えるでしょう。
そして、どんな外国人が「技術・人文知識」ビザの許可をとることができるのかについて、許可基準が定められています。それによれば、以下の項目をクリアできれば足りることとされます。
- 対象となる技術または知識に関連する科目を専攻して大学卒業または同等以上の教育を受けたこと
- 日本人が同じ職に就く場合と同等以上の報酬を受け取ること
日本人と同等以上の給与水準を要求されるのは、この後特に言及しませんが、就労ビザ全てにあてはまることです。
それ以外で要求されるのは、「大卒」以上の学歴と専攻科目と仕事の関連性だけです。
従って、大学院卒または大卒の留学生を採用し、対象となる留学生の専攻科目と職務の関連性があれば、「技術・人文知識」部分に該当する「技術・人文知識・国際業務」ビザへの変更許可を得られる基準はクリアできることになります。
「国際業務」の部分の「技術・人文知識・国際業務」ビザについても、特定の業種の採用については、大卒以上の留学生を採用すれば就労ビザがそれなりの確度で取得できる場合があります。
「国際業務」の部分の「技術・人文知識・国際業務」ビザの対象となる仕事は次の様な仕事です。
「外国文化に基盤をもつ思考・感性を必要とする仕事」で、具体的には翻訳、通訳、語学指導、広報、宣伝、海外取引、服飾・室内装飾デザイン、商品開発その他類似業務とされます。
「国際業務」の部分の「技術・人文知識・国際業務」ビザの許可の基準は、対象職務に3年以上の実務経験があることが原則なのですが、翻訳、通訳、語学指導については、大卒以上であれば実務経験は必要でありません。
なお、「外国文化に基盤をもつ思考・感性を必要とする仕事」である必要もあるので、職務上取り扱う言語を母国語とする留学生である必要があるでしょう。
従って、翻訳、通訳、語学指導の職を採用するのであれば、その職務の対象言語を母国語とする大学院卒または大卒の留学生を採用すれば、「国際業務」部分の「技術・人文知識・国際業務」ビザへの変更許可を得られる基準はクリアできることになります。
以上纏めると次の通りとなります。
大学院卒もしくは大卒の留学生を採用する場合、次の何れかの学生を採用する場合、「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得できる確度が高くなると言えます。
- 対象の職務と関連をもつ科目を専攻した留学生を採用すること
- 翻訳、通訳または語学指導の職務の採用を行う場合、職務上対象となる言語を母国語とする留学生を採用すること
「専修学校生(専門課程)」を採用する場合
専門課程の専修学校生を採用する場合も、「技術・人文知識・国際業務」ビザを取れる留学生を対象とすることが、確実にビザを取得するためには重要です。
専修学校の専門課程を修了した留学生も、専攻科目と関連した職務に就くのであれば、そのことをもって「技術・人文知識」部分の「技術・人文知識・国際業務」ビザをそれなりの確度で取得できることとなります。
但し、その場合、留学生が「専門士」もしくは「高度専門士」に学位を取得することが条件となります。
事前に、留学生の通う専修学校に確認する必要があるでしょう。
なお、専修学校を終了したとしても、翻訳、通訳、語学指導の職について「国際業務」部分の「技術・人文知識・国際業務」ビザ取得の許可基準をクリアすることにはならないことに注意して下さい。
以上纏めると、次の様になります。
専門課程の専修学校生を採用する場合、対象の職務と関連をもつ科目を専攻した留学生を採用すれば、「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得できる確度が高くなると言えます。但し、専門士もしくは高度専門士の学位を取得できる必要があります。
「日本語学校」の学生を採用する場合
日本語学校の留学生は最も数が多く、採用する側からは最も採用しやすい対象なのですが、残念ながら、日本語学校を修了したことが、就労ビザの許可のための具体的な基準の何れかの条件となることはありません。
そこで、まず日本に来る前の母国での学歴・職歴を確認して下さい。日本語学校の留学生とはいえ出身国では、高学歴であったり、職務経験が豊富であったりするのです。
もし、日本に来る前に、母国その他で大学を卒業していれば、「技術・人文知識・国際業務」ビザの許可条件の一つ大卒以上をクリアできることになります。大卒は必ずしも日本の大学に限らないからです。
その場合、何を専攻したか、そして対象職務との関連性が必要となりますから、そもそも大卒以上の知識や技能を必要としない職務についての採用であれば、これには該当しないので注意して下さい。
次は、職務経験です。いくつかの就労ビザでは、一定期間以上の職務経験が許可基準の一つとされているからです。次の通りです。
- 「経営・管理」ビザ・・・ 事業の経営又は管理について3年以上の経験
- 「技術・人文知識・国際業務」ビザ(「技術・人文知識」の部分)・・・ 10年以上の実務経験
- 「技術・人文知識・国際業務」ビザ(「国際業務」の部分)・・・ 従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験
- 「興行」ビザ・・・2年以上の外国における経験
- 「技能」ビザ(外国料理)・・・対象技能の10年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(外国特有土木建築)・・・対象業務の10年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(外国特有製造修理)・・・対象技能の10年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(宝石・貴金属・毛皮加工)・・・対象技能の10年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(動物調教)・・・対象技能の10年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(海底掘削等)・・・対象技能の10年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(パイロット)・・・250時間以上の飛行経歴
- 「技能」ビザ(スポーツ指導)・・・3年以上の実務経験
- 「技能」ビザ(ソムリエ)・・・対象技能の5年以上の実務経験
一番短いのが、「興行」の2年ですが、これは「留学生」の採用では対象とならないでしょう。
次が3年の「経営・管理」ビザ、「技術・人文知識・国際業務」ビザの「国際業務」、「技能」ビザの「スポーツ指導」ですが、「経営・管理」ビザやスポーツ指導の「技能」ビザもなかなか「留学生」にはあてはまらないかもしれません。
技術・人文知識・国際業務」ビザの「国際業務」の対象となる職務は次の通りです。「外国文化に基盤をもつ思考または感性を必要とする仕事」で、具体的には、「翻訳、通訳、語学指導、広報、宣伝、海外取引、服飾・室内装飾のデザイン、商品開発その他の仕事」とされます。
前半にある「外国文化の基盤」という点が分かりにくいのですが、具体的な対象職種は結構幅広いものとされています。
留学生の出身国の製品を取り扱ったり、出身国との取引を行う企業であれば、これに該当する可能性があるということができます。
その場合、対象職務の業務経験が3年以上必要となります。
以上纏めると、次の様になります。
日本語学校の修了生を採用する場合、日本語学校の修了自体は、就労ビザ取得のプラス要因とはならないので、出身国での学歴や職歴をもとに就労ビザを取得する可能性を探ることが肝要です。
大卒であれば、大学での専攻科目と関連する職務に就くことにより、「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得の確度が高くなります。
留学生の出身国との取引やその製品を扱う企業であれば、出身国で3年以上経験ある職務に就くことにより、同じく「技術・人文知識・国際業務」ビザの取得の確度が高くなります。
「専門性」や「技能」を必要としない仕事では?
これまで述べてきたケースは、何れも一定の専門性や技能を要求する就労ビザの取得ができるか否かを中心にお話してきました。
入管法が認める就労ビザの多くは、専門性や技能をもつ外国人を主たる対象とするものだからです。
そうではない、専門性や技能をもたない外国人就労者を対象とするビザは「技能実習」ビザだけとされます。平成31年4月に新設された「特定技能1号」ビザは、専門性や技能をもつ就労者と専門性や技能をもたない就労者の中間的な「半熟練」就労者を対象とするものと言われています。
「技能実習生」とは?
「技能実習」ビザを取得するには、技能実習法(「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」) に従い、「技能実習計画」の認定を主務大臣に受けることが必要とされます。
現在、技能実習制度は、監理団体と呼ばれる企業団体が、海外の派遣機関から実習生を受け入れるか、企業が単独で海外支店から実習生を受け入れる運営がされています。(96%以上が、監理団体を通じて受け入れているとされています。)
個別企業が留学生を技能実習生として採用することは想定されておらず、むしろ監理団体に加盟してそこを通じて外国から募集することが通常であると言えます。
「特定技能1号」ビザとは?
「特定技能1号」ビザは、平成31年4月に新たに制定されたビザですが、「技能実習」ビザと異なり、国内で在留外国人を採用することも想定された制度です。
「特定技能1号」ビザの許可を得るには、次の点に留意が必要です。
- 特定産業分野に帰属しない企業では採用できません。 次の14分野が対象です。
介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業 - 技能と日本語の試験に合格した外国人が対象です。(技能実習2号を修了していれば、これらの試験は免除されます。)
- 法定の要件を充たした雇用契約を締結する必要があります(「特定技能雇用契約」といいます)。
- 採用する外国人ごとに支援計画(「1号特定技能外国人支援計画」といいます。)を策定する必要があります。但し、「登録支援機関」という第三者に委託することもできます。
- 採用後も各種支援の実施、各種届出の義務があります。
「特定技能1号」ビザの許可基準には、学歴や職歴に関するものはありませんが、日本語と技能の試験をパスする必要があります。
日本語学校の卒業生であれば、日本語試験のパスは難しくないかもしれませんが、技能試験は簡単ではないもしれません。但し、日本語学校に通う外国人のバックグラウンドは様々です。既に母国で職歴がある留学生であれば、経験職種の試験もクリアできるかもしれません。
その他に注意すること
以上、留学生を採用した場合、「ビザ取得の可能性」を中心に説明してまいりました。その他に注意すべきこととしては、次の様な事項を上げることができます。
現在のビザは有効か?
留学生ならば、「留学」ビザをもっているはずですが、ビザには期限があります。期限が到来する前に更新しておかなければ、いわゆるオーバーステイとなってしまいます。
また、卒業後に就職活動をしている様な場合は、「留学」ビザの更新ができないので、「特定活動」というビザに変更しておく必要があります。
これらを怠っている場合、就労ビザへの変更ができなくなるリスクがあります。
公的義務は履行しているか?
具体的な許可基準や条件とはされていないのですが、留学生が公的義務を履行していない場合、消極的要素として評価されることがあるとされます。ビザの許可は、あくまで行政の裁量行為なのです。
公的義務とは、納税や社会保保険料の支払義務、入管法上の届出義務です。
雇用条件は適正か?
これまでは、留学生側の問題でしたが、これは雇用先の問題です。雇用条件が労働法規に適合している必要があるとされます。おそらく労働法規の遵守について万全を期しておられるでしょうが、念のため申し添えさせて頂きました。
最後に
近年外国人が働く企業は、めずらしくなくなりましたが、初めて雇用する場合は、様々な問題、課題に直面する可能性があります。
このサイトは、主として、入管法、在留ビザの取扱いについて、アドバイスを行うことを趣旨とするものですが、法律・行政その他様々な問題についても、お気軽にご相談下さい。
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