転職とビザ/就労資格証明書
在留外国人の転職の適法性(ビザ・在留資格に関して)
日本国憲法は、第22条で「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」と規定しており、日本国民は職業選択の自由を保障されています。
日本国民であれば、転職について、誰しもが自由に判断して、自由に行うことができるのです。
外国人の人権についての判断を示した、有名な「マクリーン事件」の昭和53年の判決で、最高裁は、政治活動の自由に関するものではありますが、憲法の保障が在留外国人にも及ぶ可能性を認めた一方で、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障は認められないとしています。
従って、在留外国人が転職を理由に、ビザ・在留資格に関する不利益な処分を受けたとしても、憲法上の職業選択の自由の保障を根拠に、その処分の否定を求めることは極めて困難であると考えます。
実務上は、「日本人の配偶者等」などの、いわゆる居住ビザ・在留資格を許可された在留外国人は、そもそも「就労制限なし」とされていることから、転職を理由とする、ビザや在留資格に関する法的な問題が生じるケースはまずはないものと考えます。
一方で、いわゆる活動ビザ・在留資格、とりわけいわゆる就労ビザを許可された在留外国人については、転職を理由として、ビザ・在留資格に関する法的問題が生じる可能性があります。
出入国管理及び難民認定法第19条第1項は、「別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者は、次項の許可を受けて行う場合を除き、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に掲げる活動を行ってはならない。」と規定しています。
「別表第一の上欄の」とは、いわゆる活動ビザ・在留資格を指します。
「次項の許可」とは、資格外活動許可を指します。
「次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に掲げる活動」とは、
- 就労ビザ・在留資格を許可された外国人が、ビザ・在留資格ごとに認められた活動に該当しない、収入を伴う事業の運営に関する活動、または報酬を受ける活動を行うことです。但し、継続的に行わない講演・講義・討論などに対する謝金、日常生活に伴う臨時の報酬などは認められます。
- 就労出来ない活動ビザ・在留資格を許可された外国人が、収入を伴う事業の運営に関する活動、または報酬を受ける活動を行うことです。
つまり、活動ビザ・在留資格ごとに認められた活動、分かりやすく言えば、認められた職業や職務以外で、収入を得たり、報酬を得ることが禁止されているのです。
実務上は、就労ビザである活動ビザ・在留資格を有する在留外国人が転職した場合、下述の通り、在留資格変更許可申請を経て転職する様な場合を除いては、その適法性が、出入国在留管理庁によって転職時点で直ちに判断される手続とはなっていないと判断されます。
問題となるのは、在留期限到来に伴い、在留期間更新許可申請を行った場合に、その審査において許可されたビザ・在留資格では認められない職業に転職したと判断されることにより、在留期間更新が不許可となるというケースです。そのような場合に、典型的にリスクが現れると言うことが出来ます。
転職と在留資格変更許可申請
転職に伴うビザ・在留資格に関する法的なリスクの発生を回避するための手段として、転職に先立ち在留資格変更許可申請を行い、その許可を得ることにより、適法性を事前に確認するということが考えられます。
例えば、大学教授や高等学校の教師が、株式会社を設立し、その取締役として、営利事業を開始する場合や、会社や機関と教育活動とは関係ない職務に関する雇用契約を結び、それらの従業員となるといった場合には、明確に従来のビザ・在留資格では認められない職業への転職のケースと言えるでしょう。
「教授」または「教育」のビザ・在留資格から、「経営・管理」または「技術・人文知識・国際業務」のビザ・在留資格への変更の許可を受けることが事前に必要と考えられるからです。
問題となるのは、次の様な場合です。
「技能実習」を除き、就労ビザでは、許可された在留外国人の数が最も多いとされる「技術・人文知識・国際業務」について、考えてみます。
「技術・人文知識・国際業務」のビザ・在留資格を許可された在留外国人の就く職業は多岐に亘ります。このことは、「出入国管理及び難民認定法」が規定するビザ・在留資格について認められた活動、及びその許可に関する基準、いわゆる「上陸許可基準」から説明することが出来ます。
「技術・人文知識・国際業務」を許可された在留外国人に認められた活動は次の通りです、やや抽象的ですがそのまま記載します。
「日本の公私の機関との契約に基づいて行う、理学・工学その他の自然科学の分野、法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する、技術や知識を要する業務、または外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動」
そして、上陸許可基準においては、詳細は省略しますが、従事しようとする職務に必要とされる技術・知識に関連する科目を専攻して大学を卒業すれば、日本人と同等以上の報酬を条件に、基準がクリアできるとされているのです。
このことから、日本の会社の様々な部門において、海外または日本の大学を卒業した多くの外国人が「技術・人文知識・国際業務」のビザ・在留資格を持って、活動することとなっているのです。
更に、翻訳・通訳・語学指導については、大学卒業者であれば、日本人と同等以上の報酬を条件に上陸許可基準がクリア出来ることとされています。
多岐に亘る職業に、数多くの「技術・人文知識・国際業務」のビザ・在留資格を有する在留外国人が勤務していることが、逆に転職に際し、在留資格変更許可申請による適法性確認を難しくしているのかもしれません。
例えば、海外の大学で会計学を専攻して学士号を取得した後、「技術・人文知識・国際業務」のビザ・在留資格を許可されて日本の会社の経理部門に勤務していた在留外国人が、他の日本の会社にシステム・エンジニアリングとして転職した場合、在留資格変更許可申請を行うことが出来るのでしょうか?
また、海外の大学で歴史学を専攻し学士号を取得した後、「技術・人文知識・国際業務」のビザ・在留資格を許可されて、語学学校で英語教師をしていた在留外国人が、他の日本の会社に機械の営業職として転職した場合、在留資格変更許可申請を行うことが出来るのでしょうか?
何れも、転職後の職務・職業に基づく活動が認められると想定されるビザ・在留資格は、「技術・人文知識・国際業務」と考えられますので、在留資格変更許可申請の対象とはならないと判断される訳です。
従って、上記の様な転職を行った場合には、転職に伴うビザ・在留資格の適法性の判断は、在留期限が到来し、在留期間更新許可申請を行うまで待たねばなりません。
上陸許可基準をクリアすることが、在留資格変更許可申請・在留期間更新許可申請の審査においても要求されることは、ガイドラインで明確にされています。
もし、在留期間更新許可申請の審査過程において、転職後の職務に必要とされる技術・知識と関連する科目を専攻して大学を卒業した訳ではないと判断されれば、結果として在留期間更新は不許可となり、帰国を余儀なくされるリスクがあるのです。
では、転職した後、早期にその転職が適法か否かを確認する方法はないのでしょうか?
転職から在留期限まで相応な期間がある場合、その方法により転職によりビザ・在留資格が適法ではなくなったと確認出来れば、適法と考えられる別の職業を新たに探すことにより、在留期間更新が不許可になるリスクを軽減できるからです。
転職と就労資格証明書
在留外国人が転職を希望する場合、在留資格変更許可申請を行い、許可を得てから転職を行えば、ビザ・在留資格に関する法的なリスクの発生を回避出来ますが、それが可能でない場合の法的リスクを軽減する方法として、就労資格証明書の交付を受けることを上げることができます。
出入国管理及び難民認定法は第19条の2で、就労資格証明書について、「その者(在留外国人)が行うことができる収入を伴う事業を運営する活動または報酬を受ける活動を証明する文書」と規定しています。
この規定だけからは、当該在留外国人が行うことができる活動、すなわち職業が網羅的に証明される印象を受けますが、実際には、申請書に記入された「証明を希望する活動の内容」及び「就労する期間」に関して、証明書が発行されることになります。
逆に、在留資格変更許可を得ることなく転職した場合、新たな職務に即した活動内容・期間を「就労資格証明書交付申請書」に明示した上で、申請を行い、「就労資格証明書」の交付を受けることが出来れば、その職務に就いている限りは、在留期間更新許可申請時に、在留資格に適合した活動を行っていないことを理由に不許可となるリスクを相当程度軽減出来るものと言うことが出来ます。
なお、就労ビザを許可された在留外国人が転職した場合、これまでに述べてきました申請手続とは別に届出を行う必要があります。
厳密には、就労ビザを許可された在留外国人が、「活動機関からの離脱・移籍」または「契約機関との契約の終了・新たな契約の締結」を行った場合、それらの事由が生じた日から14日以内に、所管の地方出入国在留管理局等を通じて、出入国在留管理庁長官宛に所定の届出書を提出する義務があります。
これらの義務を怠った場合、直ちに不利益な処分を受けることは事実上は少ないと考えますが、在留期間更新許可申請や永住許可申請などにおいて、ネガティブに判断されるリスクがあることを理解しておくことが重要です。
まとめ
就労ビザを許可された在留外国人にとって、転職に伴うビザ・在留資格に関する法的問題は取り分け関心の高いものと考えます。また、近年はフリーランスの仕事とビザ・在留資格に関する照会も多くなりましたが、それらについては別の機会とします。
転職とビザの問題については、是非ともお気軽に、ご質問・ご照会下さい。
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